飲食店と労災~裁判にいたることもある

「労災が認められるか、それとも認められないか」というのは、しばしば裁判沙汰にまでなることのあるものです。
飲食店でももちろん例外ではありません。今回は、「裁判と、飲食店の労災」という観点から見ていきましょう。

会社側や店側が積極的に労災を認めない理由は?

すべての企業や店がそうである、というつもりはもちろんありませんし、大多数のところはこの「労災」という労働者の権利を適切に守っています。しかししばしば、ニュースなどで「労災を認めない」という企業や店が取り上げられることがあります。これはいったいなぜなのでしょうか。

当事者が無理な要求、本来は労災でカバーするべきところではないところまで、「労災として認めろ」と言っているという可能性も、もちろん否定はしきれません。しかし、企業や店側に、「隠しておきたい理由」があることもたしかです。

労災の保険料というのは、すべて企業や店が負担しています。この保険料は、「労災だ」という認定を受けたところの方が、労災がなかったところに比べて高くなります。自動車保険でもそうですが、「事故を起こさない人(企業・店)の方が保険料が少なく、事故を起こしやすい人(企業・店)の方が保険料が安い」というシステムなのです。

労災は、従業員のお金からではなく、会社のお金から支払われます。そのため、労災の保険料があがればあがるほど、当然に、企業や店側の負担は増えます。このようなことから、労災を認めたがらないところもあるのです。

もう一つの問題は、「労災を起こした会社だということで、マスメディアなどに取り上げられることを避けたい」ということです。
正直な話、たとえば、「配食サービスをやっているときに、マニュアルと交通ルールをしっかり守っていたにも関わらず、前方不注意の車に追突されてムチウチになった」などのようなケースの場合はニュースバリューもありませんし、そもそも店側の責任ではありません。そのため、これらはマスメディアに取り上げられることはないでしょう。

しかしこれが、「残業続きで、しかも残業代はきちんとは支払われておらず、売り上げが悪いことを上司にさんざん叩かれて自殺した」という場合はどうでしょうか。
このような場合は、高い確率で、「ブラックな店だ」としてマスメディアに取り上げられるでしょう。その結果として、不買運動が起きたこともあります。

裁判について~実例

悲しい話ではありますが、飲食店のなかには、非人道的とすら言える追い詰め方をした挙句、従業員を死に追いやってしまう店舗があるのも事実です。

たとえば、2014年の11月に報じられたニュースがあります。これは、まだ年若かった24歳の飲食店の店長が自殺した、というもの。2010年の11月に、自ら命を絶ったとき、彼の月の平均の残業時間は190時間を超えていたとされています。月に働く時間は560時間にも達しており、仮に1日の休みもなく働いたと仮定した場合ですら1日に19時間近く、週に4日の休みがあったとしたら1日に22時間ほども働いていたということになります。もはや、人間として当たり前の生活を送ることすらも難しいような過重労働です。

しかもこのような状況はここ数か月のことだけではなく、2年9か月ほど前から12時間以上の労働を強いられ、そのうえ上司からの暴力も受けていたと言われています。

このような状況であったにも関わらず、飲食店側は「会社側には責任はない。あくまで本人の、人間関係などの問題が自殺の原因だ」としていました。
しかし、4年の時を経て、この1件は、東京地裁判決においてパワハラと認定され、約7300万円の損害賠償請求に対して約5800万円の支払いを命じるという判断を出したのです。自殺と労働に強い因果関係を認めたもので、労災ということを裁判所が正式に認めたわけです。

一方でで、ほかの案件では、「上司の暴言や退職勧告があったことは認めるが、自殺とは直接的な因果関係はない」とされ、労災が認められなかったケースもあります。

何をもって労災とするのか、どのようにしたら「因果関係がある」と認められるかについては、なかなか難しいものです。一件一件で全く性質は異なるでしょうし、それがまた裁判においてどのように判断されるかも未知数です。同じように「暴言」がストレス源となっていたとしても、それがどの程度のものであり、どんな因果関係があったかを証明するのは簡単ではありません。

もちろん、労災が起きないように責任者はさまざまな努力をし、順法精神を持って臨むのが基本です。しかし、「裁判になったときのデメリット」も意識しておきたいものです。飲食店にとってはクチコミや評判は、非常に大切なものでしょう。これらが損なわれると、後々まで影響が出てしまいかねません。そして、このような「裁判記録」は、マスメディアの活躍によって、たやすく大勢の人のしるところとなります。

労災は、当事者にとってもその家族にとっても飲食店にとってもマイナスにしかなりません。労災が起きない環境づくりに勤めましょう。