飲食店の看板メニュー、「スペシャリテ」を考えよう

飲食店の形態はさまざまです。ただ、そのほとんどが、「お客様が好きなメニューを選べる」という形態をとっているでしょう。選ぶ楽しみというのは非常に大きく、常にお客様を喜ばせます。

しかしそんな自由度の高いお店であっても、「看板メニュー」「スペシャリテ」は大きな意味を持ちます。今回は私の実体験も含めて、「スペシャリテ」の意味についてお話していきます。

スペシャリテって何のこと?

スペシャリテとは、ごく簡単に言えば、「そのお店のもっとも売り出したいメニュー」のことです。看板メニューでもあり、そのレストランを代表するメニューでもあります。多くのシェフにとって、もっとも自信のあるメニュー、特別な思いが込められたものであることが多く、文字通り「スペシャルな」ものです。

スペシャリテ、という名称は用いられなくても、和食を扱うお店やデザートを扱うケーキ屋などでもこのような「自慢の一品」が存在します。雑誌などのメディアに取り上げられるときも、必ずと言っていいほどこのスペシャリテが紙面(テレビ)に映ります。そのお店のレベルが如実に現れる一品となります。お客様も、このスペシャリテを目当てに来店することもあるため、スペシャリテの優劣はお店への評価そのものを左右することすらあります。

さてこのスペシャリテですが、これは季節を問わず出されることが多いようです。飲食店では「旬」を大事にして料理を出しますが、看板メニューは変えられることなく一年を通して出しているお店が多いでしょう。

また、コース料理を出しているお店の場合も、高い確率ですべてのコースにこのスペシャリテが組み込まれています。どうしても予算的にかみ合わない、という場合は、ホール担当者がメニューを出すときに「当店のスペシャリテの追加はいかがでしょうか」という形で案内する形がとられているでしょう。

これほどにまで特別なスペシャリテですから、これを考え出すのはレストランを経営する人間としてとても大切なことだと言えます。

今でも忘れられない3つのスペシャリテ

今でも私が忘れない3つのスペシャリテがあります。今回はそれについてもお話していきましょう。

まず一つ目は、トマトのムースです。前菜の前に出されたものでしたが、ふんわりと口のなかで溶けるその食感は、今まで味わったことのないものでした。滑らかでどこまでも軽く、しかしトマト甘酸っぱさがしっかりと残るムースでした。

色合いは薄い赤色ですが、トマトの持つ嫌味な風味がなく、トマトがそれほど得意ではない人でも美味しく食べることのできるメニューです。当時の私は「野菜のムース」についてそれほど思い入れがあるわけではなく、どちらかというと苦手だったのですが、そのトマトムースはそんな価値観さえも変えてくれました。

あれから10年ほど経ちますが、今だにこれ以上の味わいを持つ野菜のムースには出会えていません。

もう一つ紹介したいのが、贅沢な材料を使った海産物のコンソメジュレよせです。ウニやエビを贅沢に配し、カリフラワーのソースを使ったそれは、口のなかに入れた瞬間海の香りが広がります。

ソースのメインがジュレでできているため、一般的な「しょうゆ」をかけたときのように器の下の方にだけ調味料が集まるということもありません。また、コンソメのジュレは見た目も美しく、宝石のようです。舌触り・見た目・味を兼ね備えたこのスペシャリテは、今でもしっかりと覚えています。オードブルとして出されたものでしたが、この1皿のために足を運ぶ価値がある、とさえ思いました。

スペシャリテは、何もフレンチに限ったわけではありません。和食のお店にももちろんあります。はっきりと覚えているのは、かつらむきにした長いもを使ったスペシャリテです。かつらむきは非常に難しい技法であり、職人ならではの腕が冴えるものです。このかつらむきにした長いもを細く切り、そうめんに見立てたそれは、長いものしゃきしゃきした食感と味わい、そして何よりもその技巧に感嘆のため息をもらさずにはいられないものでした。

私たちが通常よく見慣れている「長いも」という食材も、一流の職人の手にかかれば、これほどにまでも変化と味わいに富んだものになるのか、と衝撃を受けた一品です。

スペシャリテはそのお店の価値を決める

このように、本当に素晴らしいスペシャリテは、何年、ときには何十年経っても、味わった人間の心に残り続けます。そして、「また行きたい」「あそこのスペシャリテをもう一度食べたい」という強烈な思いを抱かせます。このように感じた人というのは、そのスペシャリテを味わわせてくれたお店を大切にしますし、何度も足を運ぶリピーターとなるでしょう。また、「口コミ」という形で、周りによい噂を広げてくれるかもしれません。

季節によって移り変わる料理というのは、もちろん素晴らしいものです。ただ、「特別な一皿」を意識して作り上げることはとても大事です。
スペシャリテは、そのお店の価値を決める要素の一つだと言えるでしょう。