飲食店主にも知っておいてほしい手形の基礎知識

飲食店経営そのものでは現金のやりとりが多く手形での回収や決済はまずありません。また全国銀行協会の統計資料によればこの20年間で銀行交換所での手形の取扱高は6分の1に減っており、振込や小切手等にその役割を譲ってきています。しかし市場では依然として手形は流通しており、飲食業者も本業の傍ら他の事業を兼業する場合、手形を発行したりまた受け取ったりする場面に遭遇するかもしれません。

そのため飲食店経営者も今は手形に関する知識は必要なくても基本的な知識程度は持っていればいずれ役立つものと筆者は考えています。そこでこの記事ではそれを踏まえ、飲食店経営者にも役立つ手形についての基礎知識と基本的な利用方法を中心に解説します。

手形が存在する理由

そもそも手形とは何かというと、ビジネス上の取引を背景に支払人と受取人の間で交わされる「将来の特定された期日に手形表面に記載された金額を支払うことを約束した有価証券」のことを言います。

事業をしていると各種支払いや決済に現金を使いますが、現金以外の決済する方法として小切手、手形や振込なども利用できます。小切手、手形は利用予定者が取引銀行で「当座預金」という預金科目を開設してもらうと、その当座預金の信用を背景にそれぞれを振り出して利用することができます。

小切手と手形の大きな違いはその流通できる期間の長さです。

小切手の機能はほぼ現金と同じです。銀行で取扱いできる期間が発行日から10日間と短く、最短で小切手をもらった当日に銀行で現金と交換し自分の別の用途に利用できます。一方手形は有効期限が月単位になることが多く、一般的に発行日から3ケ月、長くても6ケ月が基本になります。もちろん手形を活用するには受取る側の納得と両者の合意が必要で、発行者が相手に受け取りを強制することはできません。手形が決済手段のひとつとして業者間で広く流通してきた理由もこの長期の有効期間にあります。

支払う側から言うと、手形を使うことで支払いを数か月間先に延ばすことができますので、手持ちの運転資金は少なくでき、また他の用途に利用できます。一方手形を受け取る側も、口約束で3ケ月後に振込して決済してもらうことと比べると、手形という有価証券を現物として手にできるので安心感が得られます。なぜなら手形には決済することに厳しいルールが敷かれているので、決済できないと手形の発行者も厳しい罰則を受けるからです。そのため手形の発行者は何としても決済をしようとします。

事業者は手形を利用することでより利便性に富んだ決済手段を持つことができるようになります。さらに手形を現金・小切手と組み合わせることでより弾力的な支払いができます。これが手形が決済手段のひとつとして大きく発達してきた理由です。

手形はどのような時に使われるのか?

手形は事業主が現在の支払いを先に延ばしたいと思った時、利用できる手段のひとつです。お金を受け取る予定の相手がその金額、支払期日に同意してくれれば手形の発行人は手形を振り出すことができます。

例えばひとつの発行事例として、同じ受取人に対し1ケ月後、2ケ月後、3ケ月後にそれぞれ支払いが必要だったとすると、それぞれの期日に応じた3枚の手形を一度に相手に交付するような使い方もできます。また複数の取引先にも同時に手形を発行できます。このような手形の活用をすることで事業主は支払いのタイミングを長期に渡り分散化でき、当面1ケ月以内に必要な運転資金だけを現金で準備すればよく資金の効率化も同時に図れます。

それでは次からは手形の詳しい説明に入りますが、手形には大きな分類として約束手形と為替手形があります。このうち約束手形は市場で多く流通していますが、為替手形は輸出・輸入業者等の決済に使われるなど流通量が極めて少ないので、この記事では為替手形の説明を省略し主に約束手形をメインに解説します。

約束手形を発行するためには

約束手形を発行するためには銀行で当座預金を開設する必要あります。当座預金が開設できればその事業者は銀行から一定の信用を供与されたことになりますので、その信用力を背景に小切手や手形を発行できるようになります。

ただし当座預金の開設には融資を受けるのと同様、事前に銀行による審査があります。なおこの銀行審査の詳細については、手形とともに重要な決算手段の小切手について既に姉妹編の小切手の基礎知識に掲載済みですので参考にして下さい。

銀行で当座預金が開設できれば、事業者は銀行に依頼して手形帳を交付してもらい(1冊50枚綴り、有料)1枚ずつ手形を切り離して取引先に発行することができるようになります。

約束手形の発行方法

上記は振出人により発行された約束手形のイメージです。ちなみにこのイメージ図では省略していますが手形裏面も「裏書き」という方法により使うことになっています。(詳細は後述)

ここでの当事者は株式会社○○工務店(振出人)と◎◎株式会社(受取人)の2社です。

◎◎株式会社が製造した製品・あるいはサービスを株式会社○○工務店に向けて販売・提供した結果、株式会社○○工務店は◎◎株式会社に対価を支払いますが、両社の間には将来の一定期日に支払いすることに合意が既にできており、それが約束手形という形に集約されています。

約束手形には「将来の約束した期日(平成○年△月◎日)に△△銀行○○支店で株式会社○○工務店が当座預金から◎◎株式会社に100万円お支払いします」と約束事が書かれています。受取人からすれば支払いの猶予に同意しているので、その振出人の会社の信用力や振出人に約手を交付している△△銀行○○支店を信頼して約束手形を受け取っています。

もし平成○年△月◎日に予定通り、振出人の当座預金から資金不足で決済が出来なくて販売代金の回収が出来なければ受取人は大きな経済的損失を受けますし、なにより振出人の会社が手形を不渡りにしたということで振出人は大きな信用失墜になります。そういう意味では振出人も資金繰りをきちんと管理して、支払期日には確実に約束手形の決済を行わねばなりません。

ちなみに受取人がもらった約束手形の銀行への呈示期間は支払期日を含めて3日間と極めて短いので注意が必要です。

約束手形の取り扱いについて

それでは次に振出人・受取人別に約束手形について取り扱い方法を説明します。

⒜振出人

振出人は約束手形発行に関して絶対記載しておかねばならない事項があります。それは振出人の署名・当座預金の取引印による押印、金額、支払期日です。なお銀行・支店名は銀行から約手帳の交付を受けた時に既に印刷されているので記載は不要です。

もちろん受取人も約束手形をもらった時にこれらの要件がきちんと記載されていないまま受け取ると、銀行に取り立てに回しても要件不備で受け付けてもらえませんのでしっかりチェックが必要です。金額等の記載方法については小切手に準じます。詳しくは姉妹編の小切手の基礎知識を参考にしてください。

⒝受取人

○銀行への取立依頼

約束手形をもらった受取人はそのまま支払い期日まで現物を会社で保管しておくことも可能ですが、前に述べたように「約束手形の銀行への呈示期間は支払期日を含めて3日間のみ」なのでそのまま保管するともらったことを忘れて気が付けば呈示期間を過ぎてしまっていることもあります。

その場合、約束手形の振出人への請求権はまだ失われていませんが、受取人が銀行に取立で持ち込んでも「支払期限経過済み」という要件不備で受け付けてくれません。改めて振出人に依頼して手形を返却し現金や小切手に交換してもらわねばなりません。

そのようなトラブルを避けるためにも、もらった手形を特に他の用途に使う予定がなければ、手形をもらった時点ですぐに銀行に持ち込んで自分の口座への取立依頼をしておけば後の期日管理は銀行がしてくれるので安心でしょう。

○裏書きによる廻し手形

約束手形は銀行に取立に回さなくても支払期日が来るまではそのまま決済の手段として使うこともできます。約手の受取人は約束手形を次の支払先に「裏書き」して渡すことで支払いに替えることができます。ただし当然相手が約束手形を受け取ることに合意していることが条件です。

裏書きとは約束手形の裏面に自分の会社名・または個人の署名と印鑑を押印することです。また署名欄は段状になっており上段から下段に向けて連続して裏書きができるので、支払期日まではA社→B社→C社→D社と裏書きを繰り返して支払いに替えることができます。

この場合、上記のケースで言えば◎◎株式会社(受取人)が最初の第1被裏書人になり、以後◎◎株式会社からA社に約手が回されたらA社が第2被裏書人と言うように裏書きが繰り返されます。この場合、裏書き欄にはそれぞれが裏書きして相手に渡した期日も記載せねばなりませんがその日付が逆転してはいけません。

そして最後に受け取った被裏書人が自分の取引銀行に手形を持ち込んで取り立てに回し、支払期日に決済されればその約束手形の役目が終了することになります。

しかしもしその手形が振出人の資金不足や倒産で決済ができなかった場合、今度は裏書人は逆に裏書きに書かれた逆の順に約束手形の買い戻し請求をすることになります。この場合、D社はC社が払えなければ、B社に請求という順に個別に請求していくことになります。

もちろん不渡りを起こした振出人は6ケ月間の間に2回続けて不渡りを出せば銀行取引停止処分となり、以後2年間、金融機関で一切の当座取引及び融資取引ができなくなります。

○割引手形

約束手形は受取人に運転資金等が必要な場合、銀行の資金調達にも利用できます。約束手形は銀行に取立依頼して支払期日まで待っていれば期日に決済されてお金が本人の銀行取引口座に入金されますが、割引と言う融資方法により支払期日を待たずにお金を手にすることもできます。

銀行に約束手形の買取を依頼する方法が割引です。銀行は取引先から割引依頼を受けるとその手形の信用度(その振出人の信用度や手形決済の確実性)及び取引先の信用度を審査のうえ割引可能と判断すると、支払期日までの期間で金利計算し、約束手形の額面から割引料(金利)と所定の手数料を控除して残金をその取引先の口座に入金します。こうすることで取引先は約手の支払い期日まで待たずに資金を手にすることができます。

ただしその約束手形が支払い期日に決済されず不渡りになれば、割引をした銀行は取引先に約束手形を買い戻し請求することになりますので、事業主はその場が来て「お金がない」と慌てないように不渡りの場合のルールもきちんと理解しておきましょう。

まとめ

約束手形中心に手形の取り扱いについて詳しく説明してきましたがいかがでしたか。

手形は振込や小切手に比べると支払い呈示期間の短さや記載要件の厳格さなど、何かと取り扱いが複雑なので段々と利用者が減っている点は否定できません。それでも手形を使えば支払いを猶予できる点、割引など資金調達の手段としても活用できる点、厳格なルールに守られ手形制度が運用されている点などを考えれば手形の利便性は依然として高いものがあります。

手形制度がなくならない限り、手形は事業者間の決済手段のひとつとして今後も根強く利用されるものと筆者は考えています。もし読者が取引で手形を受け取る、あるいは発行者の立場になった時にはぜひ手形の良い面を最大限利用して事業に活用してもらいたいと思います。