銀行・信用金庫から融資の見返りに預金を勧められたら応じるべきか

銀行・信用金庫などで融資を受けるとき、得意先係や融資の担当者から積立預金や定期預金をすることを勧められます。
金融機関としては当たり前のようにやっている行為ですが、あれは本当に融資を受ける(あるいは受けた)事業主に取って意味のある行為なのでしょうか。

元銀行員の筆者が中立的な立場からその意義を解説します。

融資先に預金を求める行為は厳しく制限されている

金融機関で使われる専門用語で歩積両建(ぶずみりょうだて)という言葉があります。金融機関が融資を行う際、ほぼ同じタイミングで、短期資金貸出の時に受け入れる預金のことを歩積預金、長期資金貸出の時に受け入れる預金のことを両建預金と呼びます。

これらは金融機関が融資の力を背景に、融資条件のように債務者に強制的に預けさせる預金として、長年金融庁が受入れを厳しく制限してきました。融資を受ける側も必要な融資を100%使えず、一部を預金として拘束されますから困ります。そのため金融庁として金融機関の行動を規制する観点から、このような指針を金融機関宛てに出す必要がありました。

しかしこの規制も単に金融庁による指針で法的拘束力を持たないものなので、実際金融機関の現場では融資の実行日と預金の預入日が前後で1~2ケ月以上空いていればよいという判断のもとで普通に預金を受け入れてきました。(融資担当と得意先担当の連絡ミスから融資の実行日直近日に預金がされた場合は、さすがに金融機関もまずいと判断して急いで融資先に解約を依頼してつじつまをあわせてきたものです)

実態は拘束した預金でも金融機関は預金を受け入れる理由がある

金融機関としては、通常融資先から担保もしくは保証人を取って融資を行いますが、全ての人がそれを満たしているわけではありません。この場合、融資先が「預金をしたい」と言えば金融機関としては顧客本人の意志だとして預金を受け入れます。その預金が融資の一部を信用面でカバーするので金融機関としては歓迎します。

一方、「拘束預金」とは本来正式な手続きを取って顧客の預金を担保として受け入れた預金のことを指します。
しかしこの債務者が預けた預金は、正式な拘束預金でなく「もしかしたら預金の契約を断ったら融資の許可をくれないかもしれない」「今解約したら次の融資では断られるかもしれないので置いておくしかない」という顧客の心理をうまく突いた預金であり、ホンネはしたくなくても契約せざるを得ない預金なのです。

また融資実行後に、仮に運転資金が足らなくなって事業主が預け済みの定期預金を解約して運転資金に充てたくても、金融機関の職員は陰に陽に解約することをまずいことのように暗示して解約することを引き留めます。そして代わりに、別の融資を顧客に勧めて結局顧客の融資残高が増えてしまうことになります。ビジネスとはいえかなりずるい行為です。

融資を受けていても事業主は自分の預金なら使ってよい

それではその預金は本当に絶対解約できないものなのでしょうか。

結論から言えば、それは拘束預金でないので堂々と解約して自分の事業の資金として使っていいです。融資先から「解約します」と言われたその金融機関の職員はいい顔はしませんが、そもそも金融庁から拘束性の強い預金は自粛するよう指導されているので、たとえ相手が融資先でも表立って反対することはできません。事業に本当に必要なら自分の預金として堂々と解約して使いましょう。

またたとえ解約してもそれが融資の審査に悪影響を与えることはまずありません。

それでも事業主には考えてもらいたいこと

では金融機関のこのような態度は間違っているのでしょうか。私はそうともいえないと思います。

新規の事業、とりわけ飲食業は非常に浮沈の激しい業種のひとつです。もし売上が急激に落ちたとしても金融機関は急な追加融資には応じにくいものです。しかも仕入れ、従業員給与や家賃、雑費など毎月決まった運転資金は必要です。手元に支払うべき資金がなくなれば事業はそこで終わりになってしまいます。

まさにそういう時のために自分でコツコツと貯めてきた預金がものをいうと筆者は考えています。金融機関の最初の預金勧誘の意図が別のところにあったとしても、その預金を解約する必要性が発生したとき預金が一定の残高になっていたらそのお金が事業を救う場合もあります。

また積立預金には満期日があるので、事業主としては満期日が来ればできれば取り崩して運転資金として使いたいところでしょう。しかしそこは我慢してそのまま定期預金として再度預けるのはいかがでしょうか。さらに満期が来た積立預金は必ず新たに契約して新しい積立を始めることもおススメします。

使える預金をあえて使わないのですから、手元資金の管理が大変だと思います。それでもその預金を最初からないものとして扱えば、資金繰りの苦労をしながらも、さらに経費節約とか、売上を伸ばすための新しいアイデアが沸いてくるかもしれません。預金にはそんな副次効果があることも理解してください。

また預金取引をすることで金融機関はその融資先をより信頼します。今も昔も金融機関は融資取引だけの先より、預金取引を含めた総合取引をしている先を信用するのは変わりません。

身近な金融機関で預金をすること

最期に一番肝心な点ですが、預金取引は都市銀行などでなくまずは小さな規模の信用金庫にすることがオススメです。もし近くに信金がなければ地銀、それも規模の小さい地銀ほどこの預金取引が効果的に使えます。飲食店の個人事業主にはこれがベストの選択です。預金取引も活かしつつ、要は必要なタイミングでお金を貸してくれる金融機関が個人事業主にはベストバンクなのです。

何事にも良い面と悪い面がありますが、このように融資に関して預金を勧められることにもいくつも良い点があります。それを理解したうえで賢く金融機関と付き合っていただきたいと思います。