新橋の居酒屋なら「魚バカ一代」がおすすめ

新橋駅は、1872(明治5)年、日本にはじめての鉄道が正式に開業する際に起点駅として開設された。1914年に東京駅が開業するまで、新橋駅は東京側のターミナル駅として重要な役目を担ってきたのだ。東京駅の開業にともなって、初代の新橋駅は汐留駅に、烏森駅が新橋駅に改称された。

現在、新橋駅には、JR東日本、東京メトロ、都営地下鉄、ゆりかもめの4社が乗り入れ、JR東日本の路線は東海道線、京浜東北線、山手線、横須賀線の4系統が停車する。4社局を合算した2012年度の一日の乗車人員は、約44万人。

つまり、毎日夕方になると、およそ40万個の胃袋が新橋駅に降り立つ。空っぽの胃袋を抱えたサラリーマン、OLのために、新橋駅周辺には巨大な飲食店街が形成されている。が、狭い路地に折り重なるように飛び出す看板、小さなビル内に密集するさまざまな店。ぷらっと歩いて気に入った店を見つけて立ち寄るには、あまりに店が多過ぎる。

ここで登場するのがグルメ情報サイト。ところが、これまでいく度となく検索しては店を訪ねてみたが、なかなか思い通りの店に出合うことができない……。魅惑的な街なのだが、新橋はなかなか手強い。

そんなある日、「新橋で魚を食べるなら、『魚バカ一代』、おすすめだよ」と友人から聞いた。あまりにふざけた店名なのでちょっと躊躇したが、その友人、房州の魚市場の魚を食べて育っている。これは行ってみる価値がある。

魚バカ一代

烏森口を出て、網目のような外装のニュー新橋ビルを右手に見ながら交差点を左折、3つめの路地を右に入る。新橋ならではの雑然とした魅惑の世界に紛れ込む。キョロキョロしながらしばらく行くと、1つめの角の先、左手に「魚バカ一代」の提灯が見えてくる。駅から3~4分だ。ビルの名前は「ル・グランシエルビルディング」と気取った名前だが、入り口は木造で、ちょうど飛騨高山の街にありそうな古風な感じ。

木戸のようなドアを開けると、ほっこりとしたやわらかい光に包まれた。右正面にカウンター席、左手は靴を脱いで上がる、半個室の座敷になっている。宴会にちょうどいい席だ。階段を上ると、隠れ家のような落ち着いた空間があった。全体的にこじんまりとした、温かみのある居心地のよさそうな店だ。入口の右手にあるテーブル席についた。

魚バカ一代

グランドメニューと、日付の入った手書きのメニュー「本日のおすすめ」。「本日のおすすめ」に、「バカ一代盛り 初鰹、鯵、真鯛、鰯、ハタ、方々、生タコ 1,890円」とあった。日替わりで、その日もっともおいしい魚が並ぶ。3人前ほどのボリュームだという。まずはこれからいこう。オーダーすると、木箱に入れた鮮魚をもって、「こちらが今日のおすすめです」と、店長のハルカさんが現れた。一品一品、魚や貝の名前を紹介しながら、おすすめの調理法を教えてくれる。

姿焼きにするか、はたまた煮魚にするか。好みを伝えながら今宵の献立を決めていくのはとても楽しい。箱の中を見ると、あまりに新鮮なマテ貝が、ニョキニョキと今にも箱から飛び出しそうだ。「マテ貝はシンプルに塩焼きがおいしいですよ」とにっこり。これはもう食べるしかない。「それでは、ハマグリは酒蒸しにしますか?焼いて、熱燗を注ぐ『地ハマ酒』もおすすめです」と、酒好きの心を鷲づかみにするような言葉を投げかけてくる。とりあえず、刺し盛りと貝3種で今宵の宴席はスタート。

魚バカ一代 地蛤酒

運ばれてきた「バカ一代盛り」には、鯵の姿造りをはじめ、ツヤやかな切り身が美しく盛られている。漁港近くの漁師宿にきたみたい。新橋にいることをうっかり忘れそうだ。そんなことを思っていたら、「自家製のしょう油とポン酢です」とハルカさん。これには「まさか!?」と驚きを隠せない。生タコをポン酢で食べてみる。タコの甘みと、やわらかいポン酢の風味が絶妙だ。真鯛にわさびをのせ、自家製しょう油を少しつけて口に運ぶ。まろやかなしょう油の風味と、真鯛の上品な甘みがよく合う。日本酒をあおるピッチが上がる。刺し盛りの器が下げられたあと、姿造りの鯵の骨をから揚げにしてもってきてくれた。この気配りが、なんともうれしいのだ。不思議と、鯵にも顔が立った気がする。

続いて運ばれてきたのは「地ハマの酒蒸し」。柚子の香りとハマグリの出汁がきいたスープが食欲をそそる。ふっくらとした大きなハマグリを頬ばると、濃厚な旨みが口いっぱいに広がる。「地ハマ酒」は、焼いたハマグリに燗をつけた菊姫を注ぐ。ちょっと甘めの日本酒が合うそうだ。お酒の中にハマグリの滋味がしみ出し、なんともいえない味わいである。マテ貝の塩焼きは、適度な歯ごたえと凝縮感のある甘みが特徴。そういえば、潮干狩りでマテ貝が獲れるって聞いたことがあるけど本当だろうか?

魚バカ一代イカの味噌ワタ焼き

ピッチが上がってきたところで、「イカの味噌わた焼き」。イカの姿焼きに、イカのわた、味噌などの調味料を加えた、濃厚なソースが添えられている。やみつきになる味わいだ。野菜が食べたくなったので、ヘルシーな海藻サラダをオーダー。トッピングのこんがりあぶった畳いわしを砕いて混ぜ、添えられたおろしカラスミをぱらぱらと。なかなか洒落た一品だ。そろそろツマミに。自家製の燻製三種盛りをオーダーした。サバとタコ、クリームチーズの3種が並ぶ。ローズマリーで香りづけされたサバがとくに美味。

ふと隣りのテーブルを見ると、直径15センチ、高さが10センチくらいあるかき揚げがドカンとおかれた。店のスタッフに聞いてみると「メガ海鮮かき揚げです」との答えが返ってきた。あんなに大きくつくれるのだろうか、と思いつつ、次回にとっておこうということに。

旬の新鮮な魚貝と季節の逸品料理が、リーズナブル・プライスで愉しめる「魚バカ一代」。ここはちょっとしためっけもんだ。