馬肉の旬

馬肉の旬は、春という説と、秋という説があります

春が旬だという理由には、馬肉が桜肉と呼ばれる由来として、桜の咲く頃、4〜5月にかけてが一番美味しいから、という説があります。馬は水分の多い青い牧草を食べる春〜夏場に比べて、干し草や穀類をたくさん食べて過ごす秋冬を越した時の方が、肉の質が良く味も美味しい為、ちょうど桜が咲く季節の馬肉が、脂のバランスが良くて美味しい、ということのようです。

秋が旬だという理由は、秋を代表する故事ことわざに「天高く馬肥ゆる秋」がありますが、この言葉通り、冬に向けて干し草や穀類をたくさん食べ、脂肪を蓄える馬肉は、秋の9月〜11月が最も美味しい、ということからきています。

ですが、地域によって旬が異なり、春から夏の間がもっとも馬肉のおいしい時期になるところもあるようです。

桜肉と呼ばれる由来

江戸時代は獣の殺生に厳しく、公に食べることが許されなかったため、獣肉に隠語を用いました。馬肉を「桜」、猪肉を「牡丹」、鹿肉を「紅葉」、鶏肉を「柏」と植物の名に置き換えて呼んでいました

なぜ馬の肉を「桜」と呼んだのか、には諸説あります。
肉を切って空気に触れた瞬間、きれいな桜色に変わるからという説、桜の咲く頃に美味しくなるからという説、江戸時代の民謡に桜と馬をうたっているものがあるという説、千葉の佐倉に江戸幕府の牧場地があり、立派で良い馬が揃っていたことから「馬といえばサクラ(佐倉)」と呼ばれるようになったという説などがあります。
江戸時代の民謡というのが「咲いた桜になぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る」です。小唄・都々逸で親しまれた中で「駒(馬)に桜」が一対となり馬を桜と呼ぶようになった、という説もあります。

ちなみに、馬肉が綺麗な桜色なのは、ミオグロビンという色素タンパク質が特に多く含まれているためです。肉を切って空気に触れさせた時に綺麗な桜色になりますが、長時間触れさせると、暗赤色に変化します。

馬肉は「桜肉」の他に、「蹴飛ばし」と呼ばれることもあります。馬が外敵を蹴飛ばして攻撃するところから、そう呼ばれているようです。

馬肉の消費

馬肉といえば熊本を思い浮かべるように、熊本は馬肉の生産量・消費量ともに日本一です。熊本の生産量は、全体の45%を占めています。生産量2位は福島で、全国の9割近い馬肉が、九州と東北で生産されています。馬肉は熊本県や長野県、福島県が名産地ですが、競走馬のような軽種馬ではなく、体格の大きい重種馬が主に食用として飼育されています。高級な馬刺しに使われるのは、競馬のサラブレッドなどと比べて1.5倍ほど大きくなるペルシュロン種などです。
熊本県では牛肉と同様に一般的に扱われ、馬刺しや、味噌で煮る桜鍋などが有名です。熊本以外でも福島、青森、福岡、長野、秋田、北海道などでも、馬肉は身近な食材として親しまれています。

馬肉は脂肪分の少ない健康的な肉として人気が出て、需要が増加してきました。需要の増加に伴って、輸入肉も増えてきています。平成27年の統計では、馬肉の消費量は12,830トン(国産 5,113トン、輸入 7,717トン)で、自給率は40%です。馬肉の主な輸入先は、カナダ、メキシコ、アルゼンチンなどです。

日本での食用馬肉の歴史

中国大陸北部の辺りでは、いまから60万年前の旧石器時代に、既に野生馬を捕らえ食料にしていたことが推測されています。
日本には、縄文時代に朝鮮半島経由で渡来人によって家畜馬が運ばれたと考えられています。

その後、675年に天武天皇は「肉食禁止令の詔」を出し、牛・馬・犬・猿・鶏の肉食を禁止した為、少なくともこの時代には既に馬肉が食べられていたと考えられています。

馬肉を食用にすることが広まったきっかけは、肥後熊本藩の初代藩主、加藤清正が朝鮮出兵(文禄元年/1592年)の際、食糧難に陥り、やむなく軍馬を食し、帰国後も馬肉を食べたことからだとされています。その為、熊本県では400年ほど前から馬肉が食されています。長野県や福島県では幕末から明治時代前半にかけて食べられるようになりました。

江戸時代、獣肉の店が盛んになる後半まで、仏教の教えにより肉食禁止令が何度となく発令されていた日本では、肉食は汚らわしいものとして忌避されていました。それでも肉食自体が廃れていたわけでは無く、「薬食い」という名目で食されていました。「薬食い」とは、病気の時に薬または滋養のために食べる栄養食のことで、馬肉も風邪に効くとされ、薬膳料理として定着し食べられていました。

中世日本では「馬肉を食べさせる」という刑罰があった

平安時代に記された「小右記」に、検非違使の妻に乱暴を働いた男に刑罰として馬肉を食べさせたという記述があるそうです。古代中国には「馬の肉には毒があり、酒か薬を飲まなければ死ぬ」という言い伝えがあり、それが日本に伝わり、中世日本の人々の間に定着し、刑罰として使われていたようです。

生で食べる馬肉の安全性

馬肉は他の肉同様、煮たり焼いたりして食べることもありますが、生で食べることができるのが大きな特徴です。
馬は、心臓の働きが非常に強く、その反面、肝臓、腎臓、脾臓などの解毒機能を有する期間が小さく、飼育中に抗生物質やホルモン剤などの投与は行われません。ですので、馬肉・内蔵ともに安全性が高いのです。
また、牛や豚に比べ、馬の体温は5〜6度高く、比較的寄生虫が寄り付きにくいといわれています。

馬にはサルコシスティス・フェアリーという寄生虫がいますが、馬と犬にだけ感染する寄生虫で、人間には感染しません。
でも、免疫力が落ちている人が食べると、下痢や嘔吐などの症状が出るようです。この症状は時間とともに解消されていき、重篤になることはないそうです。
サルコシスティス・フェアリーによる食中毒は、馬肉をマイナス20度で48時間以上冷凍処理する事で防ぐ事が出来ます。
現在生食用として市場に出ている商品は、すべてこの冷凍処理がされているので、心配することはないでしょう。

反芻動物(牛・羊・鹿など)は腸管出血性大腸菌(O-157)を保菌しているケースがありますが、馬は胃が一つしか無いのでリスクが低いです。厚生労働省の資料による平成11年〜22年度の調査でも馬刺しから腸管出血性大腸菌(O-157)は検出されていません。
同時に、食肉に夜細菌性食中毒の原因となるカンピロバクターについても、リスクは低いといえます。

国内の馬肉はしっかりとした衛生管理下で市販されています。抗原度(アレルギーになりやすい度合い)も非常に低く、アレルギーは起きにくいとされています。牛肉、豚肉、鶏肉とは違い、厚生労働省のアレルギーの特定原材料に該当しておりません。他の肉類と比べて食中毒などのリスクもかなり低いといえますが、体調が良くない時は、生食は避けた方がいいでしょう。

馬肉の主な栄養成分

馬肉は低カロリー、低脂肪、低コレステロールで高タンパクなのでとてもヘルシーな肉です。カルシウムや鉄分、ビタミン類が豊富で美肌効果があるといわれています。また、タテガミと言われる部位にはコラーゲンがたっぷりで、美容にも良いとされています。さらに疲労回復や滋養強壮にもよいといわれています。

お肉の甘みはグリコーゲン

馬刺しを食べた時に感じるほんのりとした甘さはグリコーゲンによるものです。馬肉には牛肉のおよそ3.5倍、豚肉のおよそ6倍も多く含まれています。グリコーゲンはブドウ糖に転換され、エネルギー源となります。スポーツやトレーニングの際には効率良いエネルギー減になるほか、肝臓の解毒作用を強化し、疲労回復・スタミナ強化を促進し、集中力をアップさせます。

イミダゾールジペプチドで疲れ知らず

イミダゾールジペプチドは鳥類の翼の付け根の筋肉に特に多く含まれています。渡り鳥が2週間以上も休むこと無く飛び続けられるパワーの源です。渡り鳥だけでなく様々な動物が元々もっている成分で、動物の体内の最も酷使する部分に豊富に存在し、ヘトヘトにならないよう助ける働きをもっています。イミダペプチドとも呼ばれています。
馬肉には「カルノシン」と呼ばれるイミダゾールジペプチドが含まれています。イミダゾールジペプチドの抗酸化作用により、疲労予防する力だけでなく、疲労回復力を高める力があると考えられています。

貧血予防に効果あり

馬肉には鉄分が豊富に含まれています。牛肉や豚肉に比べて2〜4倍の含有量があります。馬肉に含まれる鉄分はヘム鉄と呼ばれるものです。造血作用があり、非ヘム鉄に比べ数倍、体に吸収されやすい特徴があります。
また、悪性貧血を防ぐ働きをするビタミンB12が、他の肉に比べ14倍も多く含まれているので、貧血予防に効果的です。

積極的に摂りたい必須脂肪酸

馬肉は、牛肉や豚肉に比べ脂肪が少なく、低カロリーですが、脂肪部分には不飽和脂肪酸が60〜65%含まれ、牛脂やラードには含まれないαリノレン酸が豊富に含まれています。高血圧や脳梗塞・心臓疾患の予防、老化やアレルギー疾患・アトピーの防止、うつによる症状を軽減する作用があります。

おいしい馬肉の選び方

赤身はきれいな赤桃色で、白身(脂)はややピンクがかった白色のものが良く、お肉の表面に光沢があるものがいいでしょう。
切り身になっているものは、身の周囲がボソボソと切れて無く形が整っているものがいいです。

空気に長く触れていると、暗赤色になってしまうので、色味が濃くなっているものは鮮度がよくありません。白身(脂)が黄色っぽくなっているものも、かなり鮮度が落ちています。
肉からドリップ(血汁)が多く出てしまっているものや、アンモニア臭・生臭さがするものは、避けたほうがいいでしょう。

馬肉の保存のポイント

生肉の場合、極力空気に触れないようにラップ等で包み込み、密閉袋にいれて、チルド室で保存して下さい。とてもデリケートなので、冷蔵庫の扉の開閉が頻繁に行われる場所に保存してしまうと、庫内の温度が上がりやすくなり、細菌類が増殖してしまう恐れがあるので注意して下さい。冷蔵庫で1〜2日程度です。極力その日のうちに食べきるようにしましょう。
長期保存するなら、冷凍するのがいいですが、賞味期限は長くても1ヶ月が限度です。

冷凍の馬肉を馬刺しのような生食する場合、解凍は氷水などを用いてゆっくりと緩慢解凍していくのがお薦めです。馬刺しの品質劣化や細菌類の繁殖を予防します。馬肉をカットする際は、必ず包丁とまな板をアルコール除菌してから行うようにしましょう。

馬肉の調理のポイント

馬刺し

生の肉を薄く切って食べる馬刺しは日本独自のものです。
薄切りにした玉ねぎと千切りにした大葉でつまを作り、千切りにしていない大葉をつまの上にのせ、おろしにんにくとおろし生姜を添え、大葉の上に馬刺しを乗せるのが定番スタイルです。この組み合わせは、体を冷やす作用のある馬刺しに、体を温める作用を持つ玉ねぎや生姜を加えることで、体を冷やす作用を打ち消すことができるので、体にいい付け合せです。

鮮度の良い馬刺しをより美味しく食べるには、おろし生姜をお好みのタレに加え、スライスした玉ねぎと共に食べるのが一番美味しいといわれています。

唯一生食を許されている馬肉は、抗原度も低く、アレルギーを引き起こしにくいですが、食中毒の事例もあります。
取り寄せ等でご自宅で食す場合には、取扱いに注意をしましょう。

馬肉ユッケ(桜ユッケ)

馬肉を細かく切ってお皿に乗せ、中央部分にくぼみを作って、卵黄を落とします。白ごまや大葉などの薬味を加えると、より馬肉の美味しさが際立ちます。

馬刺しのタテガミ(脂身)

タテガミは脂身ですが、あっさりとしていて、ほんのりとした甘みがあり、不思議な味わいです。できるだけ薄く切って下さい。
コリコリとした独特の食感があり、そのまま食べても十分美味しいですが、赤身と食べるともっと美味しくいただけます。
赤身と重ねて一緒に食べてみて下さい。大トロのような味わいがあります。コラーゲンも豊富ですよ。

馬のレバ刺し

馬レバーは、コリコリとした食感が特徴です。牛レバーや豚レバーと較べても、独特の臭みが無く、初めての方でも抵抗なく食べられます。にんにく醤油、ごま油、ネギなどでいただきます。
馬一頭からわずかしかとれない希少部位です。扱う飲食店もそう多くはないので、見つけたらぜひ試してみて下さい。

馬肉鍋(さくら鍋)

味噌ベースの鍋料理です。たっぷりのキャベツの甘みが鍋全体をまろやかにします。

馬肉の煮込み

秋田の郷土料理です。味噌味でじっくり煮込んでトロトロに仕上げます。